人にすぐ懐きます(Kid視点)
「ユーフラテス屋、前方にて発見。発進せよ!」
「アイアイ」
無視しよう、そう思った。ただよく見知った奴がクマに乗って遊んでいるだけだ。それだけ。
「……」
「……」
「……何やってんだ」
うっかり反応してしまった。余りにも期待の視線を向けてくるからだ。溜息をつく。隣にいるキラーも同じ反応だった。
「カッコイイでしょ」
リコリスがクマの頭を軽く叩く。すると、クマは見せ付ける様にその場でクルリと回った。
「楽しいか、それ」
「勿論!」
例えリコリスが楽しいのだとしても、果してクマ的にはいいのだろうか? 気になってクマを一瞥してみたが、ニコニコと笑っている。問題はないようだった。きっと、ガキの面倒をみている様なものなのだろう。(実際に、そうだが)
「お買い物にいくんだ、おれたち」
やはり嬉しそうなクマ。
「肩車したままでか?」
「楽だしモフモフよ? 降りる理由が何処にある」
キラーが問うと、ニヤリと笑うリコリス。一々ドヤ顔すんな。何故かトラファルガーの奴と被った。船員が船長に似てくるだなんて聞いた事がない。夫婦か、と言ってやりたかったが、もしそうしてしまえば絶対うぜェことになりそうなので口が裂けても言わないが。
「ユーステス屋達も一緒に来る?」
ヒョイッとクマから飛び降りて首を傾げるリコリス。楽しそうなその笑顔に一瞬戸惑った。が、仲良く買い物なんて柄じゃねェし、そこまで馴れ合うのは憚れる。いずれ戦わないといけない相手だとは頭の隅で理解していた。おれも、勿論キラーも。まだまだ先の話になりそうだが。
「止めとく。お前んとこの船長に怒られんぞ」
「ユースが?」
「いや、お前が」
分かったよ仕方ないな、と実に不満そうな声を上げるリコリス。
だが次の瞬間には何時もの様に戻っていた。
「リコリスっ!」
「船長!?」
――トラファルガーがリコリスを探しにやって来たのだ。
しかし、嬉しそうなリコリスとは裏腹にその表情は硬い。眉間に皺を寄せていて傍目から見ても機嫌の悪さが感じられる。しかも、目の下を縁取る隈との相乗効果でつくづく人相も悪りィ。おれが言えたことではないが。リコリスもその様子に気付いたのか、即座にハテナマークを浮かべていた。
「来い、帰るぞ」
何時もはやらないだろうに、トラファルガーはリコリスの手を握る。と言うよりも引っつかむと言った方が正しいか。
「ば、ばいばい、ユースタンス屋とキラーさん」
そうしてリコリスはトラファルガーに引っ張られていってしまった。ポカンとしていたクマも奴らを追って走っていってしまった。台風が去った様な気分だ。
何故、トラファルガーは機嫌が悪かったのだろうか。そして、あいつは何時になったら、おれの名前をまともに呼ぶのだろうか。ふと疑問に思った。
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